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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)13881号 判決

被告 大同信用金庫

理由

一、《証拠》によれば、請求原因二、三の事実を認めることができる。

請求原因四の事実及び昭和三九年一二月一九日原告、三井徹治及び被告の三者間で、本件一の土地建物につき十勝化成の全信連に対する抵当権設定登記が完了したときは、被告が金一、六〇〇万円を原告に交付する旨の契約(以下本件契約という。)が成立したことは当事者間に争いがない。そこで右契約の趣旨につき判断する。

前記確定の事実に《証拠》を総合すると、原告、被告および十勝化成(代表者三井徹治)の三者間で本件契約が成立したのは、被告の十勝化成に対する貸付金が結局は本件一の土地建物の買戻代金の支払いに当てられるべき筋合いのもので、原告は染川静子の実質上の代理人として十勝化成と別個の立場で右支払を確保する必要があつたためであり、原告が十勝化成の代理人として受領する旨の単なる十勝化成に対する貸付金支払方法を約した趣旨ではないこと、もつとも被告は同日十勝化成から、原告を被告からの借受金受領代理人とする旨の委任状を徴したのであるが、これは、被告としても十勝化成に対する融資金が本件一の土地建物の買戻代金の支払に充てられるものであり、原告が十勝化成と別個の利害関係を有することを了知していたので、右のように原告に対する支払を約したものの信用金庫の貸付金を借入申込者以外の第三者に対して直接支払つて貸付実行をすることは異例なことであるので、一応手続上の形式を整えると共に二重払いの危険をも防止する趣旨で前記のように十勝化成から委任状を徴したのであることを認めることができる。右認定を左右するに足る証拠はない。してみると、被告は本件契約に基づき、実質的には十勝化成の代理人ではない原告に対して、十勝化成に対する貸付金一六〇〇万円を支払う義務を負うに至つたものといわねばならない。

二、そこで、被告の抗弁につき判断する。

被告が請求原因第四項記載の十勝化成との間の融資契約に基づき、昭和四〇年一月一一日、十勝化成に対し金一、六〇〇万円の融資を実行したが、抵当権設定登記が未了のため右金員は十勝化成名義の通知預金として拘束しておいたこと、原告が本件一の土地建物について昭和四〇年一月二八日受付で十勝化成への所有権移転登記と全信連への抵当権設定登記手続を完了したことは当事者間に争いがない。この争いのない事実と《証拠》を総合すると、(一)被告は本件一の土地建物について十勝化成への所有権移転登記と全信連に対する第一順位の抵当権設定登記が昭和四〇年一月一〇日頃迄には完了するとの予想のもとに、全信連に対し十勝化成への融資金一、六〇〇万円の交付方を求め、同月一一日これが資金を全信連から受入れたが、その時点では右登記手続完了までなお暫く日時を要しそうな模様であつたので、斯かる場合の内規(全信連の代理貸付業務取扱要領第3章4(3))に従い、かつ十勝化成の利益等も考慮して、一応右資金一、六〇〇万円を預金利息を生ずる十勝化成名義の通知預金口座に預るとともに、その通知預金証書に十勝化成の同預金払戻受領印を得ておいて、実質上被告が同預金を自由に処置できるよう拘束していたこと、(二)ところで、被告の十勝化成への本件一、六〇〇万円の融資については、本件一の土地建物への抵当権設定のほか、右融資の連帯保証人となつていた徳山こと洪貴順の徳山教子名義による被告に対する額面五〇〇万円の定期預金の担保差入れが条件となつていたのであるが、昭和四〇年一月に入つてから洪が右定期預金の担保差入れを断る旨被告に申し入れてきたので、被告はこれに代る定期預金の担保差入れ方を十勝化成に要求し、それが出来なければ本件一、六〇〇万円の融資も実行できなくなる旨伝えたこと、しかし十勝化成としては、差当つて右融資金中から五〇〇万円の定期預金をしてこれを担保差入れするほか他に方法がなく、また昭和四〇年一月半ば頃取引会社の倒産等により経営状況が悪化したので、右融資金の一部は自己名義の当座預金口座に入れることが是非とも必要な情勢となつていたこと、(三)一方原告は、本件一の土地建物について昭和四〇年一月二八日受付で前記各登記を完了し、同月三〇日本件融資金一、六〇〇万円の交付を求めるため被告銀座支店に赴く前に、十勝化成の代表者三井徹治と会合したところ、同人から(二)のような事情であるので本件一の土地建物につき原告のため第二順位の抵当権を設定するから、本件融資金一、六〇〇〇万円のうち金五〇〇万円を十勝化成名義で定期預金として被告に担保提供し、金一〇〇万円を十勝化成名義の当座預金とすること等を認めて貰い度いと訴えられたので、原告も四囲の情勢から已むを得ないものとしてこれを承諾したこと、かくして右同月三〇日被告銀座支店において、原告及び三井徹治と被告担当者とが前記通知預金の払戻方法について協議し、その三者の合意に基づいて、抗弁二の(一)ないし(七)のとおりの交付または振替えがなされ、その払戻が完了したものであること、以上の事実が認められ、《証拠》中右認定に副わぬ部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。以上の認定の事実関係のもとでは、前記の通知預金の形式は暫定的なもので、通知預金の払戻完了によつて本件融資金交付が完了するものと認めるべきであり、かつ右のように原告が三井及び被告と右通知預金の払戻方法につき合意したことによつて、同時に、被告の原告に対する本件契約による金一、六〇〇万円の履行方法についても合意がなされたものと認めるのが相当であるから、右合意に基づく通知預金払戻完了は、とりも直さず本件契約による被告の債務履行完了でもあるということができる。したがつて被告の抗弁は理由がある。

三、よつて、原告の本件請求は理由がなく失当であるから、これを棄却

(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 堀口武彦 栗栖康年)

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